「新興国に分散投資しましょう」という助言を聞いたことがあるかもしれません。成長率の高い複数の国に幅広く投資しているような印象を与える言葉です。しかし実際に新興国指数の中身を開いてみると、思っているよりずっと狭い範囲に資金が集中しています。新興国投資が実際には何を買っていることになるのか、なぜ魅力的とされるのか、そしてなぜドルの方向にこれほど敏感なのかを見ていきます。
新興国とは何か
新興国(Emerging Markets)とは、先進国ほど成熟していないものの急速に成長している経済を指します。MSCIの分類では、中国・インド・台湾・韓国・ブラジルなど24か国が該当します。先進国に比べて成長余地は大きい一方、市場制度・情報開示・流動性の面では相対的に未成熟という共通点があります。
実際には4か国に集中している
「新興国分散」という言葉とは裏腹に、代表的な指数であるMSCI EM指数は少数の国に大きく集中しています。
図は概念図です。比率は時点により変動し、台湾・韓国は特に半導体関連企業の比率が高くなっています。
台湾(約25%)、韓国(約20%)、中国(約19%)、インド(約15%)の4か国で指数の約8割を占め、残り20か国が残りの2割を分け合う構図です。しかも台湾と韓国は半導体関連企業の比率が特に高くなっています。つまり「新興国ETFを買えば24か国に均等に分散される」という印象とは異なり、実際には東アジアの半導体・IT企業に偏ったポートフォリオに近いのです。ETFを一つ買う前に、実際の構成内容を一度確認しておく価値があります。
なぜ新興国に投資するのか
主に2つの理由が挙げられます。1つは成長です。新興国では人口増加、中間層の拡大、工業化が進行中であることが多く、先進国よりも高い経済成長率が期待できます。もう1つは分散です。米国株式市場と完全に同じ方向にだけ動くわけではないため、ポートフォリオ全体の値動きを緩和する効果が期待できます。
2025年のMSCI EM指数は33%を超える上昇となり、2026年に入ってからも序盤は上昇基調が続きました。ただし、この流れが常に滑らかというわけではありません。新興国は先進国よりボラティリティが大きく、上昇時も下落時も値動きの幅が大きくなる傾向があります。
新興国とドルの関係
新興国のリターンを左右する最大の変数の一つがドルです。ドルが弱含む局面では、新興国資産は概して有利に働きます。理由は2つあります。第一に、多くの新興国企業・政府がドル建てで借り入れをしているため、ドル安になると自国通貨換算での返済負担が軽くなります。第二に、ドル安局面では投資家がより高いリターンを求めて資金を海外に振り向ける傾向があり、その受け皿として新興国が選ばれやすいためです。
反対にドルが強含む局面では、この流れが逆転します。新興国通貨が弱含み、海外資金が流出しやすくなり、ドル建て債務の返済負担が重くなります。新興国投資を検討するなら、個別の国の成長ストーリーと同じくらい、今がドル高局面かドル安局面かをまず確認する必要があります。
知っておくべきリスク
⚠️ 注意: 米国SECは新興国投資について、いくつかの明確なリスクを指摘しています。新興国に上場する企業は米国企業ほど厳格な情報開示義務を課されていないことが多く、入手できる情報の質と信頼性が低くなる可能性があります。米国では一般的なクラスアクション(集団訴訟)のような投資家保護手段も、多くの新興国では実際には利用が難しい、あるいは事実上不可能な場合があります。指数にそのまま連動するファンドは、こうした投資家保護水準の違いを反映せず、時価総額のみを基準に比率を決めています。
これに為替リスクも加わります。現地の株価が上昇しても、その国の通貨が弱含めば、円やドルに換算した際のリターンは目減りする可能性があります。政治的不安定、資本規制、流動性の薄さによって、売りたいときに売れない状況も先進国より頻繁に起こります。
どうアクセスするか
個別の新興国株を自分で選ぶのは、上記のような情報格差があるため個人投資家には特に難しい選択です。現実的な方法はETFを通じた幅広いアクセスです。ただし前述の通り、ETFの実際の構成(どの国・どの業種に偏っているか)は必ず確認すべきです。新興国への配分をどの程度にするかは、資産配分の原則の中で決めるのが安全です。
どう読むか
- 「分散」という言葉を鵜呑みにしない。 実際の構成を見ると、少数の国・業種に偏っていることがよくあります。
- ドルの方向も合わせて見る。 新興国の成績は、個別のファンダメンタルズと同じくらいドルの強弱に左右されます。
- ボラティリティを踏まえて比率を決める。 期待リターンが高い分、下落幅も大きくなります。資産全体の一部として組み入れましょう。
何を見るか
ダッシュボードではドル指数(DXY)、ドル/ウォン相場、米10年債利回りを一緒に確認できます。この3つの指標の方向を併せて見ることで、今が新興国に有利な局面か不利な局面かを判断しやすくなります。
一次情報: 海外投資について、米国SEC Investor.gov
本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。