ビットコインが1日で5%以上動くこともある市場の中で、常に1ドル前後にとどまるよう設計されたコインがあります。ステーブルコインです。これほど変動の激しい暗号資産の世界で、なぜ「安定した」コインが必要なのか、その安定性は実際に何が保証しているのか、そして安定していると信じられていたコインが崩れた事例まで、一つずつ見ていきます。
ステーブルコインとは
ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨に価格が固定(ペッグ)されるよう設計された暗号資産です。1 USDT、1 USDCは理論上常に1ドルです。目的はシンプルで、取引所の中でわざわざ銀行口座に出金してまた入金し直さなくても、値動きのない資産として一時的に待機したり、他のコインを売買したりできるようにすることです。
2026年半ば時点で、ステーブルコイン全体の時価総額は約3,000億ドル前後、USDT(テザー)が約60%、USDC(サークル)が約24%を占め、この2つで市場の9割近くを占めています。
ペッグを維持する3つの方式
「常に1ドル」という約束をどう守るかはコインごとに異なり、この設計の違いがそのままリスクの大きさを分けます。
図は概念図です。市場シェアはおおよその数値で、時点により変動します。
法定通貨担保型(USDT、USDC)は、発行体が発行量に見合う現金と短期国債を保有します。最もシンプルで、現在の市場の大半を占める方式です。リスクは、発行体を信頼できるか、保有する準備資産が本当にその分あるか、資産の質は安全かにかかっています。
暗号資産担保型(DAIなど)は、ビットコインやイーサリアムのような変動の大きい資産を、コインの価値よりもかなり多く(例えば150%)預け入れてペッグを支えます。発行体への信頼は少なくて済みますが、担保にしたコインの価格が急落すると強制清算が発生することがあります。
アルゴリズム型は準備資産を持たず、コードと市場のインセンティブだけでペッグを維持しようとする方式です。理論上はもっともらしく見えましたが、2022年にテラUSD(UST)がこの方式で崩壊し、事実上市場から姿を消しました。
ペッグが崩れるとき:テラとUSDCの2つの事例
⚠️ 注意: 「ステーブル」という名前は安全を保証しません。2022年5月、アルゴリズム型ステーブルコインのテラUSD(UST)は、姉妹コインのルナ(LUNA)と互いに支え合う仕組みでしたが、大規模な売りが始まると、この仕組みがかえって崩壊を加速させました。数日でUSTは1ドルから事実上ゼロまで下落し、数百億ドルが消失しました。いわゆる「デス・スパイラル」です。
法定通貨担保型も完全に安全というわけではありません。2023年3月、USDCの発行体サークルは準備資産の一部をシリコンバレー銀行(SVB)に預けていましたが、SVBが破綻するとUSDCは一時0.87ドルまで下落しました。米政府がSVBの預金全額保証を発表すると数日で1ドルに戻りましたが、「準備資産が本当にあり、アクセス可能か」がなぜ核心的な問いなのかを示した出来事でした。
米GENIUS法:初の連邦規制
これまでステーブルコインは、明確な連邦規制のないまま成長してきました。2025年7月に制定されたGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)は、米国で初めて決済用ステーブルコインに対する包括的な連邦規制の枠組みを作りました。
主な要求事項は次の通りです。
| 項目 | 要求内容 |
|---|---|
| 準備資産 | 現金・短期国債など流動性の高い資産で1対1保有 |
| 償還 | 保有者の請求に応じた明確な償還手続き |
| 資本・リスク管理 | 発行体に最低資本要件とリスク管理基準を課す |
| 情報開示 | 準備資産の構成を定期的に公開 |
2026年現在、OCC・FDIC・財務省(FinCEN)がそれぞれ細則の提案段階にあり、法律自体は遅くとも2027年1月までに全面施行されます。監督体制が整ってもリスクがゼロになるわけではありませんが、準備資産の不備や償還拒否といった問題に対する最低限のセーフガードができるという意味があります。
ステーブルコインは何に使われるか
最も一般的な用途は取引所内での待機資金です。コインを売った後すぐドルに出金せず、USDTやUSDCとして保有し、後で別のコインを買うといった使い方です。それ以外にも、DeFiの貸付・預入、海外送金、通貨が不安定な国でのドル代替の貯蓄手段としても使われます。暗号資産の時価総額とドミナンスの記事で触れた通り、ステーブルコインの時価総額の増加は、市場に入る準備ができた待機資金が積み上がっているシグナルとして読まれることもあります。
保有者が知っておくべきリスク
💡 Tip: ステーブルコインは銀行預金ではありません。預金保険(米国ではFDIC)はコイン自体には適用されず、発行体が破綻したり準備資産に損失が出たりすると、償還が遅れたり損失が発生したりする可能性があります。複数の取引所に大きな金額を長期間ステーブルコインで置いておくより、必要な分だけ短期間保有する方が安全です。
まとめるとリスクは3つに分かれます。発行体が流通量に見合う準備資産を実際に、安全に保有しているか(発行体リスク)、銀行システムに問題が起きたときその資産にアクセスできるか(SVBの事例)、そしてそもそも準備資産なしにコードだけでペッグを維持しようとする設計ではないか(テラの事例)です。
何を見るか
ダッシュボードでは、暗号資産の時価総額とビットコイン・ドミナンス、恐怖・強欲指数を一緒に確認できます。ステーブルコイン自体の価格は常に1ドル近辺にとどまるのが正常なので、むしろペッグから外れる瞬間こそ、市場全体のストレスを示すシグナルになり得ます。
さらに読む
テザー(USDT)の成長過程と暗号資産業界の裏側を追ったジーク・フォークス(Zeke Faux)の Number Go Up は、ステーブルコインが実際にどう機能し、どのように疑いの目を向けられてきたかをジャーナリストの視点で描いた一冊です。
一次情報: FDIC、GENIUS法施行細則案の承認発表
本記事は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。